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世界は、常に切り替わっている。その世界全てを私たちは認識することはできない。それなのに、世界をたったひとつだと思い込んでしまうと、私たちはそれ以外の世界を認識することができない。

私たちが、幸せを追い求めてしまうのは、私たちが幸せになるようにと決定づけられていると、だれかに教えてもらったわけで、自分たちの中で幸せを認識したわけではない。どちらかといえば、幸せの定義は作られたものだ。

だから、幸せになるということを私たちは認識することができない。幸せになる方法を教えますと言われてもその幸せについて本当の答えを知っている人がいないのだから。

この世界がいくら最低だとしても、私たちは生きていかなければならない。最低だから、最高だからというのは私たち生きる上では全く関係のないことだ。

神の法則は、ただ私たちの心臓が生き続ける限り、血液を送り続ける。どうしてもこの世界の法則を知りたいと思ったら、多少残酷なものも受け入れる必要がある。

人は、結果について知りたいと思わない。今この世界の現実を知りたいと思うのだ。私が何者で、今何をしていて、どんなことを思っているのか。それ以外には興味がない。未来のことを話している人は、宇宙人をみるかのような目で見られる。

しかし、未来の話をどれだけ熱く語ったとしても、それが現実になるとは限らない。半分の可能性と、半分の失敗談が未来にはあるだけだ。

私がエネルギーについて話す時、それは純粋なるものとして、言葉を纏う。しかし、もしも言葉がこの世界になかったとしても、私はエネルギーを語ることができるだろう。

この世界の人々は、エネルギーについて少しだけゆがんだものを真実として信じているように思える。その真実が明かされることは、この世界の全ての財宝を集めることよりも大切であるため、私たちはそのプログラムを開けることができないようになっている。

全ての現実を、私たちが見ていると仮定する。私たちは、エネルギーを変換することができるし、振動を感じることができる。しかし、その振動を合わせる必要がある。振動を合わせることで、その振動が凝固したものを見ることができる。私たちが現実世界と呼んでいるものだ。

ONE STORY(2)

木本は、自らを神と呼ぶ人を目の前に何を切り出せばいいのか考えながら、落ち着かない喫茶店で、ひたすら水と珈琲を交互に口にする。
全身の痛みでもっとも強いのは右腕だった。おそらく折れている。しかし病院に行くべきとは思わない。行っても痛みの軽減をしてくれるだけだと思っているからだ。そんなことばかり考えて、結局は色々なことの選択を間違っているように思える。でもこれは、今に始まったことではないし。頭の中では、またいつものように分裂した自分が騒ぎ出す。
「無謀と、勇気は違う」
目の前の神が口を開く。木本は、右腕から視線を神に移す。神にもらったタオルは木本の全身の汚れを受け、赤と黒で染まっている。
「あの。名前だけでも教えてくださいませんか。今度、お礼しますので」
木本は言う。
自らを神と称するその人は、もう一度静かに言う「勇気がない。戦いを挑むには、その戦い自体をもう少し自分に納得させる必要がある」
自らの可能性を信じて、あり得ないとあり得るの間を右往左往しながらアキレス腱を鍛えたつもりでいたが、木本の体は今その気持ちとは裏腹にボロボロになっていることを認めざるを得ない。
 確かに、なんどもなんどもシンプルに繰り返す動作。いつも最後は、自分の不甲斐なさに嫌気が差すと言う着地だった。今の自分がまさにそうであり、生きているのか死んでいるのかも分からずに失われて、視覚嗅覚味覚触覚それらを信じることができなくなり、怒りに任せた街で戦いを挑む。まだなにも戻っていない感覚の中で感じるのは痛覚だけだ。
神は誰かに電話をかけ始める。
「一人、無謀と言う生命体を確保した。彼は、自分が抱いている感覚のはけ口をどこに出せばいいのかを全くわかっていない。集合してくれ」

ONE STORY(1)

いつの間にか雨が降っている。私は、ゆっくりと目を開ける。刺すような激しさで背中に打ち付ける雨粒が、私を目覚めさせたのか。地面に叩きつける土砂降りの雨粒を見たからなのか。騒音にも近い雨の音が耳に届いたからなのか。

厳密に言えばなんでもよかった。意識を体に向けると至る所に痛みが走る。それは電気回路にスイッチが入ったかのように、足のつま先から頭のてっぺんまで満遍なく。

力の入らない右腕を意識しながら、ようやく頭が働き始める。雨が降っているのに、地面は意外と暖かい。全身に力を込めて、私は体を反転させ仰向けになる。上を見つめたところで空があるだけで、全部さらけだしたからといって空が答えてくれるわけでもない。にもかかわらず、私はこの瞬間雲の向こうにある太陽を求めてみる。

泣いているのか、雨なのかもすでに分からず、何が良いことで何が悪いことなのか。雨に問いかけようとした時、彼女の声が頭の中に響いた。

「そこまでして、何かと闘う理由は何なの?」

草原が好きだと常日頃いっていた彼女は、私ではなく、私ではない誰かを選んだ。私は強がりという言葉をどうにか自分で説明しようと、頑に、意志で同じだけの強度を保ってきた。それでも私が持つ手のひらの感覚と心の飢えはとても正直で、1つ息をつく。

私は、膝を立てて立ち上がる体制を整える。立ち上がろうと腕に力を込めると肩に力が加わり、私はよろめいた。

雨が止む。

「いつまでそんな惨めな格好に酔っているんだ。最低限の感覚だけは握りしめておかないと。明日、いや数分後すらも不確かな未来に、姿形を持たない物語を描く、か」

必要以上に大きな傘を抱えて、その人は立っていた。