ONE STORY(2)

木本は、自らを神と呼ぶ人を目の前に何を切り出せばいいのか考えながら、落ち着かない喫茶店で、ひたすら水と珈琲を交互に口にする。
全身の痛みでもっとも強いのは右腕だった。おそらく折れている。しかし病院に行くべきとは思わない。行っても痛みの軽減をしてくれるだけだと思っているからだ。そんなことばかり考えて、結局は色々なことの選択を間違っているように思える。でもこれは、今に始まったことではないし。頭の中では、またいつものように分裂した自分が騒ぎ出す。
「無謀と、勇気は違う」
目の前の神が口を開く。木本は、右腕から視線を神に移す。神にもらったタオルは木本の全身の汚れを受け、赤と黒で染まっている。
「あの。名前だけでも教えてくださいませんか。今度、お礼しますので」
木本は言う。
自らを神と称するその人は、もう一度静かに言う「勇気がない。戦いを挑むには、その戦い自体をもう少し自分に納得させる必要がある」
自らの可能性を信じて、あり得ないとあり得るの間を右往左往しながらアキレス腱を鍛えたつもりでいたが、木本の体は今その気持ちとは裏腹にボロボロになっていることを認めざるを得ない。
 確かに、なんどもなんどもシンプルに繰り返す動作。いつも最後は、自分の不甲斐なさに嫌気が差すと言う着地だった。今の自分がまさにそうであり、生きているのか死んでいるのかも分からずに失われて、視覚嗅覚味覚触覚それらを信じることができなくなり、怒りに任せた街で戦いを挑む。まだなにも戻っていない感覚の中で感じるのは痛覚だけだ。
神は誰かに電話をかけ始める。
「一人、無謀と言う生命体を確保した。彼は、自分が抱いている感覚のはけ口をどこに出せばいいのかを全くわかっていない。集合してくれ」

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